ベンチャー投資の実務から離れ、1ヶ月ちょっと経ちました。コンサルティングの仕事をしつつも改めてベンチャー投資の実務に関して考えるようになりました。 実は間違ってやってことも発見したりと離れてみるとわかることも多く、この1ヶ月は非常に貴重な時間でした。
ベンチャー投資の問題として多く発生する問題をまとめてみたいと思います。ベンチャーッキャピタル側や起業家側も経験が少ないため、起こる問題を列挙します。
この問題は、会社法に対する理解が浅いことに起因します。
例1
- ベンチャー企業A社が10社のベンチャーキャピタルから1社5000万円の資金調達を行うことになった。仮に5000万円×10社 =5億円。1社あたり3%の持分と仮定する。70%は経営陣が保有すると仮定。
- 投資を行う際に投資契約を締結することを求められた。その中に取締役会へのオブザーバー参加(取締役会に参加する権利) や 重要事項に関する承認事項が含まれていた。たとえば第三者割当増資を行う際に10社のベンチャーキャピタルから承認を得ないといけないといったものだった。結局、投資金額も同じくらいなので条件面も横並びとなった。
- 上記のようなケースで起こる問題
- 取締役会に取締役+10名のオブザーバーが参加している。単に会社に報告するために参加している方が多く、人数が多すぎて取締役会で重要な議題を議論されなくなるという点。
- 承認事項に関してはよくあるのが、投資したときよりも低い株価で増資しないと資金調達できないという場面で、 「株価が下がるのはだめ」といって反対するケース。それも10社もあると足並みがそらわないし、かといってその10社が追加投資するのは難しいと回答するケース。
- 問題①
- 上記の資金調達を行うときに1社または数社のベンチャーキャピタルが異議を唱えた。その結果、ベンチャー企業はリストラをせざるおえなくなり、縮小均衡となった。縮小均衡となったが、メドがつかなくなった。投資回収のメドもつかないし、会社の存亡の危機をむかているが、誰も投資する会社はいない・・・。
- やがて、ベンチャー企業は債務を抱えて破産することになった。代表者は個人で多額の債務を抱えることになった。
- 上記の場合、誰に責任があるのでしょうか?
- 回答 ①業務執行を行った経営陣である ②異議を唱えたベンチャーキャピタルである。 ③その他
- 会社法の原則
- 第三者割当増資は株主総会の特別決議(3分の2)である。70%経営陣が保有している場合、原則 経営陣だけで可決可能である。会社法では取締役会や株主総会ではマジョリティボーティングが基本である。
- 株主は有限責任であるという点。5000万円以上投資した場合、5000万円以上の損失はでない。 一方、業務執行を担当している取締役メンバーは株主代表訴訟の対象だったり、代表者はリースや銀行借入れに対して個人保証をしているケースが多い。
- 何が問題だったか?
- 問題なのは、横並びの投資契約にあります。「意思決定」のプロセスの設計に問題が存在します。
- USの投資契約では、優先株式での投資が基本なっており、投資契約上は重要事項に関しては、A種優先株主の3分の2(や過半数)の承認が必要である など、株主1社に承認の権利を与えるのではなく、あくまで投票する規定となっています。
- 今回のケースでは、10社のA種優先株主が存在します。その3分の2の承認となると、7社の承認が必要となります。
- 7社押さえれば良いという話でもありますが、そもそも重要な意思決定を7社に説明し、承認を待つというのは大変な作業である。 結局、「上司に相談する」とか「資料としてあれこれがほしい」といったことになるわけです。
- 重要なポイント
- 各ベンチャーキャピタルとベンチャー企業(発行会社)との投資契約だけでなく、株主間契約を締結し、意思決定のルール など明確に規定すべきであると考えています。ベンチャー企業は弁護士もあることながら、私のようなベンチャーキャピタル側で投資実務(契約実務)を経験し、さまざまな問題を見ている人のアドバイスを得るべきである。
- たとえば、10社もオブザーバーに参加してもらっては困るため、10社に対しては4半期とか半期に一回合同の説明会を行う というルールを組み込みます。10社株主があったら、「ちょっと業績報告してほしい」とか依頼を受けることがあると思いますが、さすがに10社×1-2時間の説明は業務に支障がでます。断ったりすると、株主を軽視している経営者だ! とか思われたりすることもあるわけです。
- 上記の合同説明会であれば、①月次の財務データを各ベンチャーキャピタルに郵送する ②半期(四半期)に一回に説明会を実施する ということになり、非常に効率的になります。
- 意思決定のルールも第三者割当増資を行う際にデットロックにならないストラチャーを考えるべきとういうことになります。危険な状態は①現状は先行投資が継続するため、赤字である ②資金調達したときにValuation(時価総額)が高い といった場合に起こることが多い。計画がブレると資金ショートになりやすく、かつValuationも高かったため、株価を下げての資金調達は「何をしているのだ!」といった株主の反対が多いわけです。
- 「契約書」は約束であり、逆に契約に書いていないいないことはやらなくてもよいということを明確にすべきであると思っています。投資家は契約以上のことはしていはいけない。それがルールのように思います。
- そもそも、ベンチャーキャピタルなど投資家は、「営業支援します」などのセールストークをしますが、実際に では「何社 顧客を紹介する」とか具体的な目標を契約書に書く会社はどれくらいあるのでしょうか?
といろいろと書きましたが、ベンチャーキャピタルから資金調達をして後悔するケースや、資本政策を間違った! というケースは多々あります。 株主構成というのは後から変更するのは労力がかかるものです。
私が独立して目指したいベンチャーキャピタル像は、①起業家サイドに立つこと、②経営などにコミットすることの 2つである。 ①の起業家サイドに立つというのは、シリーズAというアーリーステージ投資を行い、 シリーズB,シリーズCなどの資金調達の際には、常に起業家サイドのアドバイザーとして働く(つまり、株価や条件などよりよい条件を引き出すこと)。企業家サイドのアドバイザーとしてはPro-rata(シェアに応じた)投資が原則となる。
②の経営にコミットするということは、 たとえば、経営チームの採用活動にコミットする(いつまでに採用する とか) など活動に対するコミットをすることだ。
投資契約の問題なので、優れたベンチャー企業の成長を阻害することはベンチャーキャピタルの存在意義を否定するようなものだ。 起業家には純粋に事業に専念できる環境を提供することがベンチャーキャピタリストの仕事であると思っています。