気が向いたときにVC投資の実務編を書いていますが、今回は会計デューデリジェンスに関してです。
投資する際の評価のプロセスは、ビジネスプランのレビューから始まります。市場性、競争優位性、戦略、経営チーム、利益計画、資本政策などビジネスプランに含まれていますが、いとつづつ、 仮説を立て検証していきます。(詳しくは割愛)
上記終了後、投資委員会で投資の意思決定(内定)します。ただし、条件付の意思決定です。その後、会計デューデリジェンス(会計監査のようなもの)と法務のデューデリジェンスといった専門家による作業を行います。 費用は2つでだいたい100万円/件です。通常は投資した場合は投資先に費用を負担して頂くというのが一般的です。
通常のベンチャー企業の場合はこれから3年後のIPOに向けて頑張りますというケースが多いため、監査法人と監査契約しているケースは稀です。IPOには2期分あれば良いので、3年後となると監査の必要性はないし、お金がもったいない ということになります。
会計デューデリジェンスの結果、投資委員会を通過したにもかかわらず、投資を見送ったケースが何件があります。 なぜ、見送るのか?という点は”粉飾決算”とか粉飾までいかないにしても大きな問題が見つかった場合です。
会計デューデリジェンスは損益計算書というよりかは、バランスシートに注目します。資産性の資産か? 簿外債務は? という点です。 危ないケースは売上高は成長し、利益もなんとか黒字が続いている というケース。バランスシートを良く見ると資産(無形固定資産や在庫)が膨らんでいたり、借入が増えているケースがあります。 キャッシュフロー計算書と損益計算書を見比べるとわかりますが、当期純利益はプラスだが、営業キャッシュフローはマイナスというケースです。 借入が増えると、黒字であることが重要になります。特に短期借入金に依存している場合、1年後の折り返しの融資がない場合は死活問題です。 となると、資産計上し、少しでも黒字にしたいという意向になりやすいというわけです。
作業をしてみると、いろいろな発見があります。帳簿のチェックと 在庫などの実物のチェック、そして銀行通帳のチェックをしていきます。
- 実は資産性がない。在庫で計上されているが、実物が存在しない とか、ソフトウエア開発費を資産計上しているが、実は使用していない。
- 退職慰労金を積み立ていない とか、不足とか。
- 代表者や個人・会社のお金の貸し借り(やりとり)がグレー
- 他社への債務保証。
などです。経営者が恣意的に行っている場合は一発アウトなのですが、経営管理能力不足や知識の不足のため悪気はないかが上記のようなことがあるというのがよくありません。 悪意ではないケースでは上記のような問題が改善した後に投資を実行するとかになります。改善不能のケースは投資の見送りといったようになります。
最近、IT時代においては以下のような話も深刻です。
- ソウトウエア・ライセンスの未払い(例:従業員100人いるのにMSオフィスのライセンスンを20ライセンスしか購入していないとか)。規模が大きいと数千万円のインパクトです。
- Palamida (NILSスピーカー)の会社が提供するサービスのようにオープンソースのコードをチェックするサービスがあるように、特にオープンソースの無断利用という点もリスクとなっています。
- 当然ながら個人情報保護法も信用問題で極めて重要です。
上記のソウトウエア・ライセンスの問題は、簿外債務といっても良いでしょう。
さて、 重要なことを書きます。 細部に神は宿る ではないですが、細部に真実があるという点です。 こらはApax Partners の創業者のアラン・パトリコフが強調するポイントです。 市場性とか経営チームの略歴とか華々しいところに目がいきがちで、多少問題があっても投資しよう ということにありがちですが、しっかり細部を見ることが重要です。特に組織のところ と 上記の会計のところは人の行動が反映するところです。
実は日本の多くのベンチャーキャピタルは会計デューデリジェンスを行いません。通常は監査報告書があるところはそれですまし、投資検討先の会計事務所が行ったショートレビューを代替しますが、 ショートレビューすらしないという点があります。
会計デューデリジェンスにおいて非常に問題があった会社に実は他のVCが投資していたとか、投資を実行したというケースがあります。(守秘義務の関係のため、会計デューデリジェンスの結果は他VCにはオープンにしていません)
大手の監査法人の監査(トーマツさんとか)は信頼が置けるため、十分に代用可能です。
大手の監査法人が監査している場合は、監査結果に対してレビューするといった内容にしています。 一方、ショートレビューは、投資家の視点というわけではないため、必ずしも我々が期待する内容ではありません。 スカスカのケースが多かったりします。
事業だけでなく、会社の実態をしっかり評価して投資を実行する。ベンチャー企業にとっては大変作業であり、 今の時代 何でもいいから投資しますというEasy Moneyと比べると大変ですが、 しっかり守ってやってきたいプロセスです。