メモです。
1 日本の特徴
米国と日本を比較する上で、ベンチャーキャピタル産業の構造がそもそも異なる。そのため、ディールストラクチャーなどあらゆる面で変わってくる。
- 日本はほとんどのベンチャーキャピタルはコーポレートのベンチャーキャピタルである。事業会社や金融機関系など細かな区分はあるが、個人がGeneral Partner となってファンドを運用するシリコンバレーなどのベンチャーキャピタルとは組織の構造が異なる。
- 上記の違いは投資担当者のリスクとリターンが変わるコーポレートのベンチャーキャピタルの競争優位性は、個人というよりかはコーポレート=会社にある。商社であれば商社の持つネットワーク、事業会社であれば事業シナジー といったところだ。 組織で行動するため、個人の成功報酬がないケースが大半である。 一方、普通のベンチャーキャピタルはキャリード・インタレストという成功報酬が個人に分配される。通常はキャピタルゲインの20-30%だ。例えば100億円のファンドを5名で運用しているとしよう。3倍の300億円になった場合、200億円のキャピタルゲインとなる。その80%は投資家であるLP(Limited Partner) に20%はGP (General Partner) に分配される。GPの分配比率を均等にすると、200億円×20%÷5=8億円 というのがGP 一人あたりの儲けとなる。
- 上記はリターンの面だけ書いているが、リスクも高い。LP は有限責任。つまり、出資金額以上のリスクは負わない。 一方、GPは無限責任だ。 そして通常 GPはファンドの1%の出資する必要がある。100億円のファンドの場合、GPは1億円出資しないといけない。 日本のファンドの場合、会社がGPとなっているため、個人にリスクはほとんどない。 一方、個人のGPの場合は運用成績がすべてであり、パフォーマンスが悪いと次のファンドを設立することができない。つまり、失業だ。
- シリコンバレーでは、VCファーム間は競争になるのは上記のような理由だ。リターンの面でも成功すれば大金持ちだし、 失敗すると失業だ。 日本は競争することにインセンティブはないため、仲良くみんなで投資しましょう という横並びのカルチャーになるのだ。 営業目標ではないが、何件何億投資するという目標設定がされ、その目標を達成するとボーナスがでるような構造では、リターンに対する意識よりかは、投資することに意識がいくのが当然なのだ。 結局、Valuationや優先株式などの投資条件をネゴするより、多く投資できるとか投資することを優先する。 ”投資させてください”と営業することになる。
- また、ベンチャーキャピタリストの給与水準を比較しても日米の差は歴然としている。日本の場合、一般的なベンチャーキャピタルの給料が高い仕事では必ずしもない。ベンチャー企業といっしょに働くことが楽しいといった方が多く、支援したいという志が高い人も多い。 しかし、 ベンチャーキャピタル同士がガチンコで競争するといったところにインセンティブが働かない。 日米と構造が異なるのだ。
2 ディールストラクチャーにおける日本の特徴
日本のディールストラクチャーは以下の通りだ
- 1社3000-5000万円を5社とか(もっと多いこともある)で投資するのが一般的。
- 投資金額も少なく、投資したい という考え方になるため、投資条件に関する交渉力がない。そうなると、ベンチャー企業の考えた投資条件(普通株)でOKというケースが多い。 公開企業の公募増資みたいな感じだ。ベンチャー企業側が条件を提示し、投資したい会社が投資するという流れ
- 一方、シリコンバレーでは、VC同士がリードイベンスターの座を争い、投資条件を記述しているTerm Sheet をそれぞれ出す。 ベンチャー企業側はその条件の中で、様々な要素を勘案し、リードインベスターを選ぶ。1-3社で増資のラウンドで組成される。
- シリコンバレーのVCの場合、お互い競争するため、Valuationを高くして、他の優先株式の条件をよくするとか、様々なパラメーターをいじってあれこれ考える。特に投資ブームのときはパブルではないですが、Valuationの高騰が起こるのもお互い競争するからだ。
- 一方、日本の場合のValuationの高騰パターンはファンドが大きくなり、多くの金額を投資しないといけない。Valuationは高くても良いので投資させてほしい とかいったことだ。投資条件を競争しているわけではなく、ノルマ達成といった理由になるのだ。
3 日本で優先株式での投資などの状況
- まず、シリコンバレーではすべて優先株式での投資なのに、日本はあまりないというのはおかしいというシリコンバレー最高!みないな考え方はおかしい。 資本主義を追求した結果、複雑な優先株式になっていく。 一方、シンプルという意味で普通株式は株主平等であり、わかりやすい。
- グリーやリサイクルワンのケースは、シリーズAの投資ラウンドで普通株式であるが、弊社単独の投資となり、社外取締役として就任している。 インタースコープの場合は、シリーズBラウンドのリードインベスターとして投資(普通株)。シリーズCは追加投資は優先株式だ。 インタラクティブブレインズはシリーズCのリードインベスターとして優先株式だ。
- 普通株式 と 優先株式 の分かれるところは交渉力がベンチャー企業側と投資側にどちらにあるか?といった点が大きい。 投資側にある場合は優先株式となりやすいといういうのが原則だ。
- 交渉力が投資側にあるという点は、 投資したいという会社が少ないとか躊躇しているとかといったケースだ。 日本の場合、5000万円を一回投資したら、事業計画どおりいかずに追加の資金調達を計画した場合、追加投資するケースが少ない。(シリコンバレーの場合、Pay To Play という概念があり、追加投資しないとそもそも株券が紙くずになる) 多くの金額を資金調達を行うタイプの業態の場合は、ラウンドを重ねるとい、投資家が少なくなるため、後から投資する大口投資家の交渉力が高い など。
- また、面白しいのが、普通株式で投資している株主(投資家)は、優先株式を発行する際は反対したりする。特に自分は追加投資しないが、自分に不利だから反対するというが多い。 小口で投資する会社が多いため、優先株式A,優先株式Bとかかずが増えると関係者の調整が大変になってくるのが日本だ。結局、普通株式のほうがいろいろと楽だったりするが実際だ。
- このように日本のベンチャーキャピタル産業の違いが投資の条件など大きな影響をしている。