「ICCカンファレンスの作り方」に続いてカンファレンスのプログラムの考え方をまとめてみたいと思います。
カンファレンスのプログラムのデザインに関して僕の考え方をまとめました。面白いかどうかはわかりませんが僕はこんなふうに考えています。
カンファレンスの会場選定に必要な「スケジュール」と「フォーマット」をまず決めることが重要
「スケジュール」と「フォーマット」をまず決めることが重要です。スケジュールというのは例えば1日終日のカンファレンスなのか、2日間のカンファレンスなのか さらにはどのような時間割にするのか? といったところです。「フォーマット」というのは「東京で開催するのかオフサイトの合宿型なのか」「1セッションあたりの時間を何分にするのか」「登壇者の人数は何名にするのか」「プレゼンテーションをメインにするのかパネルディスカッションをメインするのか」などを「フォーマット」と私は定義しています。
実際に僕に相談される方は「○○をテーマにカンファレンスを開催したいと思っているがどのような予算感で考えればよいのか?」とか「○○を集めててIVSのようなカンファレンスを開催したいがどのようにやったらよいのか?」という質問をします。 開催の目的や予算がまずあるのですが、「スケジュール」と「フォーマット」です。
予算も1日で開催するのか2日間で開催するのかで予算も変わりますし、会場を複数にするのかどうかで予算が変わります。開催の目的も東京にいる方を対象にするカンファレンスの場合は利便性を重視して東京で開催するのか、それとも合宿型にしてコミュニティ形成を重視する場合は京都や福岡など東京から見て「オフサイト」のカンファレンスが適しています。
「2日間」「オフサイト」「会場は最大4会場を利用する」など会場選定に必要な条件である「スケジュール」と「フォーマット」をまず決定することが重要になります。2日間で開催する場合は準備に1日必要の部屋の確保が必要になるため3日連続して必要な宴会場・会議室を手配する必要があります。時期によっては3日間連続で押さえることは難しい。「オフサイト」「3日間」「複数会場」となるとどうしても準備としては1年前に会場手配が必要があります。ICCカンファレンスの場合も2016年9月の京都開催、2017年2月の福岡開催は「スケジュール」と「フォーマット」を固めて会場手配から行いました。
具体的なセッションのフォーマットを決める
会場選定と同時に具体的なセッションのフォーマットを決める必要があります。メイン会場は500名シアター型(ホテルの宴会場の説明資料を見ると「シアター」「スクール」「立食」みたいな表現があります。シアターというのは椅子だけ、スクールというは机と椅子があります)が必要であります。 「キーノートスピーチ」のような参加者全員が聞くようなセッションがある場合は参加者全員が収容できるホールが必要になります。最大人数が500名だったら500名のホールが必要なわけです。分科会形式で複数のセッションが同時進行するケースや展示ブースを設置するみたいなことを考える場合も会場の要件を考える必要があります。 会場の導線もしっかり把握した上でどのような「セッションのフォーマット」を採用するか判断する必要があります。
さらにスケジュールも具体的な時間割にして登壇者の人数などのフォーマットを固めることがが重要になります。僕の場合はセッションの時間を75分を標準として、登壇者は3〜4名+1名のモデレーターというフォーマットを採用しています。標準を決めるとあとはその応用となります。 標準の4名の登壇者の場合はプレゼンテーションは自己紹介程度にしてパネルディスカッションをメインにするというものです。プレゼンテーションの時間を多くしたほうがよい場合は登壇者を3名にするなど変えていきます。 これは1人あたりの持ち時間を計算して考えます。このようなフォーマットの開発そのものが企画を考える上で重要になります。
私がパネルディスカッションを好むのは理由があります。ICCは「産業を共に創る経営者・幹部の集まり」というコンセプトなので単独講演ではなく複数の方が議論した内容こそ価値があるというのがベースの考え方です。さらには登壇者にとって①準備不要であること ②他の登壇者が話している間に自分の考えをまとめることができること、③他の登壇者の発言から学ぶことができる の3つです。経験がある方はわかりますが1名で90分講演してくれ というのはとても大変です。③の他の登壇者の発言から気づきを得ることが多く、一緒に登壇した方々はその後 仲良くなります。このような「つながり」をつくることを大切なことだと考えています。
このような「フォーマット」を組み合わせてプログラムを考えていきます。ICCカンファレンスにおいても75分を原則として採用し、登壇者も3〜4名という内容です。休み時間は30分間なのは参加者同士のネットワーキングの時間のためです。ICCカンファレンスのコンセプトはコミュニティ作りです。参加者同士が交流・議論することがとても重要になります。この30分という休み時間は参加者の方は「なんとなく心地が良い」という評価になっていると思いますが計算して30分になっています。ランチの時間は75分もしくは90分としています。私の企画するカンファレンスの場合は1セッションを 75分とすると1日のプログラムだと5つのセッションとなります。 開始時間を10時にすると受付は9時30分。スタッフの集合時間は8時みたいなのが自動的に決まっていきます。休み時間が30分あると運営もとてもスムーズになります。セッションが盛り上がったら延長してもよい。最大15分延長しても次のセッションはオンタイムで開始可能です。
いろいろなカンファレンスに参加される方はわかると思いますが、セッションの時間が45分で登壇者が5名いたりする場合は時間を延長することがよくあります。休み時間が5〜10分程度だとどうなるか。次の開始時間が遅れることになるのです。そのままずるずる開始時間が遅れている。途中から参加するともともとセッション3から参加しようと思っていたが、まだセッション2の途中ですということになるのです。 登壇者からしても45分で5名だと持ち時間も少なくちょっと物足りないと思うはずです。参加者同士の交流を促進すること や セッションの盛り上がりを大切にしながら規律のある運営する(オンタイムで開始する)ことを考えると30分の休み時間というのは良く考えられたものなのです。
特徴のあるセッションのフォーマットとは何か?
特徴のあるセッションのフォーマットを紹介します。 まず1社6分のプレゼンテーションを行うLaunch Padです。プレゼン時間が6分なのか10分なのかは好みの問題なのですが短い時間に多くのプレゼンテーションを行うため、ステージの左右にプレゼン台を設けて左右交互にプレゼンテーションを行うという方法を考えました。1番目のプレゼンテーションをしている場合、2番目の方はその間に準備を行います。1番目の方が終わった瞬間からからスタートできるようになります。利用している機材は「RGBシームレススイッチャー」を利用するオーソドックスな方法です。企画と運営方法は表裏一体となっており、企画だけ考えれば良いというものではなく実際に運営方法を同時に考えることが重要になります。「フォーマット」というのは表面的なことだけではなく、運営方法も含め開発することが「フォーマット」に求められます。
次世代パーソナルモビリティ「WHILL」 from Infinity Ventures Summit on Vimeo.
TEDの動画をご覧になったり、TED x シリーズに参加されている方はわかりますが、TEDという「フォーマット」があります。プレゼン時間は1名あたり10〜15分であり、中央に赤い丸い絨毯の上で1人でプレゼンテーションをします。登壇者にスポットライトをあてビジュアルを多用したエモーショナルなプレゼンテーションを行う形式です。友人の御手洗さんのプレゼンテーション動画を参考までに紹介します。TEDの場合は複数台のカメラを利用して映像の撮影のアングルを変えたものを組み合わせをしています。
第二回となる2016年9月の京都開催のICCカンファレンスのときはTED型のプレゼンテーション・フォーマットにチャレンジしてみようと思っています。75分のセッションのため12分のプレゼンを6名の方が登場するような形式です。Launch Padと同じような方式で実現可能です。 TED型とLaunch Pad型は同じ機材で運営できるため例えば午前はTED型のプレゼンテーションをやっていて、午後はLaunch Pad型にするみたいなフォーマットの切り替えもできるわけです。
NHKの紅白歌合戦 も素晴らしいフォーマットです。白組・赤組に分かれて原則交互に歌っていく。合間にはいろいろな企画があるし、歌っているときも背後で何かやっている(相撲をしたりする)。スケジュールも遅れることなくオンタイムに進行しますし、本当に素晴らしい運営だなと毎回関心しております。会場にいるともっとよく分かると思うのですが合間の余興の間にステージのセッティングを切り替えを行っているわけですがその時間も正確に何分でできるということをやっている。素晴らしいです。
ICCカンファレンス 2016 Spring のプログラムの組み立て方
実際にICCカンファレンスのプログラムをご覧いただけるとどのような考え方かわかると思います。
70〜80名の登壇者がいるのですがどのようにテーマを考え、どのように人選しているのか?という点が次に重要になります。フォーマットが決まると1日5セッションですがパネルディスカッションをメインにする場合は1セッションあたりモデレーターも含めて登壇者5名必要となります。つまり1日で25名最大で必要となります。
セッションの企画はまず大きなテーマを考えるようにします。「組織開発について議論しよう」「ベンチャー・ファイナンスに関して議論しよう」「東京大学の研究者の方に話してもらいたい」といった大枠のテーマです。このテーマだったらこの人が良いのではないか?というリストアップします。「テーマ」も実は人ありきで考えています。
経営者・幹部・プロフェッショナルの方がどんな話ができるのか、どんなことに興味を持っているのかは日々のFacebookの投稿であるとかインタビュー記事など見てできるだけ詳細にチェックします。ICCカンファレンスの場合は単独で講演するというスタイルのカンファレンスではないため、「組み合わせ」が重要になります。この食材とこの食材は相性がよいみたいなことを行うわけですが、素材の特徴を理解することが重要になるわけです。
ICCカンファレンス 2016 Springに登壇予定の登壇者数は80名近く内定していますが、80名をセッション数17スロットにどのように配置するのか? 組み合わせのパターンは非常に多く存在します。この組み合わせの方法がカンファレンスの特徴を決めるものであり、職人技です。 他にも組み合わせのパターンがあるのですが、今回はこのパターンでやるというのを私の判断で決めています。ICCカンファレンス 2016 Springの70〜80名の登壇者とその組み合わせは今回は2日間くらいかけて検討した内容です。
具体的にセッションの企画の事例を解説します。ファイナンス系のセッションは人気・関心の高いテーマです。ベンチャー・ファイナンスにおいて誰が登壇したら良いのか?という点を考えます。
Session 2-A 「今後のファイナンスの行方」(今後のベンチャー投資から上場企業のファイナンス・M&Aまで議論する)
(スピーカー)
インキュベイトファンド 代表パートナー 村田 祐介 氏
株式会社WiL Co-Founder and CEO 伊佐山 元 氏
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー COO 今野 穣 氏
楽天株式会社 代表取締役 副社長執行役員 山田 善久 氏
(モデレーター)
UBS証券株式会社 マネージングディレクター 武田 純人 氏
ベンチャーキャピタリストの方は数多くいらっしゃいますが登壇可能な方の中で3名選ぶとしたら伊佐山さん、今野さん、村田さんの3名にお願いしよう。さらにベンチャーキャピタリストだけ並べても議論に深みがでないので楽天の山田さんのようなグローバルに投資や買収など経験されている方がパネルに入ると深みが増す。モデレーターは僕の企画するカンファレンスにおいてモデレーターとして高い評価をされていた武田さんに打診。このように4名の登壇が内定しました。
次の事例は組織開発系のセッションです。
Session 5-A 「継続的な成長を実現するには?(仮)」
(スピーカー)
グリー株式会社 代表取締役会長兼社長 田中 良和 氏
日本交通株式会社 代表取締役会長 川鍋 一朗 氏
ヤフー株式会社 副社長執行役員 最高執行責任者 川邊 健太郎 氏
(モデレーター)
株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島 悦子 氏
僕が企画するカンファレンスにおいてモデレーターの岡島悦子さんは鉄板のモデレーターです。毎回 有名な経営者・幹部の方とのパネルディスカッションのモデレーターを担当いただいておりました。登壇者は岡島さんに議論したいような経営者にしっかり打診しています。まだ3ヶ月も先のカンファレンスですがだいたいどんな盛り上がり方をするか想像できるくらい具体的なイメージができる人選をしています。「フォーマット」は1名あたりの時間を増やし深く議論できるように3名の登壇者の構成になっています。
さらに各論を解説しますと セッション3-Bの企画です。
Session 3-B 「上場を通じて学んだこと」
(スピーカー)
株式会社gumi 取締役 川本 寛之 氏
株式会社SHIFT 代表取締役社長 丹下 大 氏
株式会社じげん 代表取締役社長 平尾 丈 氏
株式会社フリークアウト 取締役 COO 佐藤 裕介 氏
(モデレーター)
バークレイズ証券 ディレクター 米島 慶一 氏
昨今 上場する企業が増えたこともあり、実際に上場して学んだことなど共有する機会があればよいな思って企画したセッションです。上場している経営者であれば誰でもスピーカーでよいのではないか?と思われるかもしれませんが、「人」を重視した人選をしています。 「上場を通じて学んだこと」というとお固い感じのセッションになるのは面白くありません。上場企業で話が面白い!という経営者は多くいらっしゃいますが他のセッションに登壇しているため、平尾さんと丹下さんだろうということ人選しております。さらに代表以外の方もいたら異なる立場から発言できるということでCFOの川本さんやCOOの佐藤さんといったメンバーを揃えて企画しました。なぜ川本さんや佐藤さんなのか? それは私が聞いてみたいといった好みです。モデレーターはアナリストの米島さんにお願いしました。
このようにすべてのセッションについてこのような検討を重ねていきます。スケジュールの関係でセッション1の時間帯しか登壇できない などの制約条件を理解して組み合わせを考えていきます。 ICCカンファレンスはNHKの紅白歌合戦のような定番になるカンファレンスを目指しています。ICCカンファレンスの紅白歌合戦も出演者数が非常に多いのが特徴です。 出場歌手を見ると長年連続出演をしている方もいるし、初登場の方もいる。4年連続で「女々しくて」を歌っているゴールデンボンバーのようなグループもいる。歌っている歌も新曲ではないほうが多いため、紅白歌合戦を見てフレッシュな番組だと思う人はいないと思います。大晦日はNHKの紅白歌合戦を見て過ごしたいという人は世の中には多く存在し、年代も幅広い。安心感がありながら、この人知らないなみたいな発見がある。僕の場合は「女々しくて」は1年に1回しか聞かないのですがゴールデンボンバーを見ると妙に安心します。
プロダクト・アウト型の発想法を学ぶ
ICCカンファレンスの企画は「プロダクト・アウト型」の発想方法ですが、雑誌の編集者のような視点が重要になってくる。最近は建築家や編集者の方の本を読んで勉強するようになりました。最近読んだ本では里山十帖の話が面白いです。
イベントが増えたという意見もよく伺うようになりました。増えたといってもホテルやレストランと比べてたらどうでしょうか? 増えること自体は自然だと思います。 「イベント増えたな〜」と思っている方はいらっしゃると思いますが、自分の会社と同じような会社は実際に何社あるのでしょうか? 自動車会社だでも多くありますし、車種にしたら数多く存在します。 ホテルであれば「星のや」のコンセプトが好きだから宿泊し、リピートする。 それだけのことです。 ICCカンファレンスは「星のや」のようなオリジナリティをもったホテルの経営を研究しながら、コンセプトや運営が出来上がっています。しっかり経営するのみです。
ICCカンファレンスも単にイベントではなく、「リアル・メディアとしてのカンファレンス」(里山十帖に影響されています)であり、「コミュニティとしてのカンファレンス」です。 ボランティアチームと一緒に作り上がる独自の運営方法を採用し、コミュニティ・デザインという考え方に基づきカンファレンスを企画・運営しています。さらにはICCカンファレンスの取り組みは「メディアの再定義」です。メディアに関しての取り組みはしっかり実現するタイミングでご紹介できればと考えています。
(続く)