梅田さんが制度設計側が是正すべき一般投資家のリスク過重 という記事をフォーサイトに書いていたので私なりのコメントをしたいと思います。ドリコムの事例などを用い、公開し易さの観点 と 公開後の投資家にハイリスクを負わせているという制度は問題だ ということでした。
株式公開という点で、実務的な点からまとめてみたい。
- 業績でいうと、経常利益1-2億円の実績で、EPSの成長率が50-100%あるような会社は公開可能である。ただし、審査に対応するという過酷作業があり、”簡単”に・・ というわけではない。最近の粉飾問題など審査は厳しくなっている。
- 早く公開を目指すというのは現在の時価総額の高さである。未公開の段階でVCなどから資金調達を行うより、有利な条件で資金調達することが可能。株式交換での買収もしやすくなる。 一方、現在 未公開株式の株価も高騰しており、そんなに大きな差でもないように感じるようになった(という点も問題ですが・・)
- 時価総額が高い ということは、新規株式を発行した際に希薄化を少なくでき、双御者の持分を高い状態で維持することできる。村上ファンドなどそういう心配はない。
- 株式公開をすると、銀行からの借入の個人保証がなくなる。
という点である。 なぜ、業績のハードルが低いのか? という点は投資家の新興市場に対する期待というか、投資意欲の増大である。 1件儲かったら、2件とか3件とか儲けたいと思うのが投資家である。 投資家は期待する銘柄を常に探している。しまし、供給側を考えると、そんなベンチャー企業、それも質の高い企業が生まれてきているわけではなく、5年経ってから公開していたような会社が、3年とか短くなっていったのである。 投資家の意欲という点では、日経平均(赤線)とジャスダック平均(青線)の過去5年間の推移を見るとわかりやすい。 日経平均を上回る成長性は新興市場に対する期待度であり、2004年以降のネット系銘柄の成長へのつながった。
さて、本当に投資家にハイリスクを転じているのだろうか? 私の意見は公開株という流動性があり、一定の審査を通った会社であるため、VC投資のハイリスク度合いとは異なるが、 新興市場の投資家はリスク応じたリターンを得ていると考えている。 最近、ライブドア問題ではないが、過剰になりすぎた結果、調整の局面を迎えているが、5年というスパンで見るとリターンは出ているのである。 ドリコム、比較コムなどは例外中の例外だ。新興市場に何社上場しているのか? その2社である。
下のチャートをみてほしい。色が変わって申し訳ないが、赤線が日経平均、緑の線がジャスダックインデックス、そして青の線が、インベスコ 店頭・成長株オープン のパフォーマンスの推移である。個人投資家でさらに儲けている人は多いだろうが、成長株を対象とした代表的のファンドの例を出すのが良い。なぜなら、インベスト 店頭・成長株オープンは誰でも買えるし、流動性もある。 2003年1月に保有している人は300%くらいになっている。 VCファンドやPEファンドでも3倍というのは真面目に大変な数字である。 3倍のリターンを出すVCファンドは立派であると言える。
最近の新興市場は良くない とか、ドリコムさん の時価総額の高さが目立つ という点において、 ハイリスクを一般投資家に転じていると言えるのがだが、 5年という目で見たり、マーケット全体を見るとそんなことはないのである。 株式市場には波がある。良いときも悪いときもある。異常の値のように高い株価の会社もあれば、低すぎて村上ファンドなどのターゲットになる会社もあるのだ。
公開前の投資家が利益を早い段階で利益を確定することができるかもしれないが、成功するものあれば失敗するものもあるわけで、平均すると甘いリターンは出てこないのだ。
IPO後の成長戦略、特に組織の面に課題を抱えている企業が多い。成長のカベが存在する。これは事実である。 ただ、制度的に問題か?という点に関しては、いろいろ問題が発生するが、そのたびに審査が厳しくなったりと対策は打たれている。結局はSOX法のようなことになってしまう。 つまり、厳しいところを一方的に押し付けている ということでは決してないのである。 また、リスクの面だけでなかく、リターンの面を見ないと、投資というのは語れないのである。 また、おいしいところを先取りしているケースもあるが、失敗もたくさんことはあまり一般投資家に知られていないのだ。 破産処理もしたことあるし、いろいろストレスのたまる仕事なので、たまには美味しい思いというか、うまみがないとベンチャーなんてできないっす よ という人が多いと思う。
(続はこちら)
(以下、引用)
では日本のこの現状の何が問題なのか。
この仕組み全体の関係者が取るリスクと得るリターンのバランスが、株式公開前の関係者にやさしく、株式公開後の関係者に厳しくデザインされ過ぎているこ となのである。そしてこれは、起業家のモラルによる解決を期待すべき問題ではなく、制度設計側の責任で是正すべき問題だと私は考える。
ところで「売上高を数億円規模から数十億円規模へと伸ばす」期間とは、ベンチャーが「まだどうなるかわからない危なっかしい存在」から「真の公開企業」へと脱皮するための「最大の難所」である。
今の日本の仕組みの最大の問題は、株式公開前の関係者が「早すぎる公開」によって先にハイリターンを確定してしまい、「最大の難所」を乗り切るリスクを、公開以降に投資した一般投資家に負わせているところにある。
むろん株式投資は自己責任が原則だ。しかし一般投資家の多くが、「おいしいところ(ハイリターン)を株式公開前の関係者が先食いしていて、厳しいところ(ハイリスク)を一般投資家に押し付けている」構造になっていることを知らない。